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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)137号 判決 1979年3月09日

主文

一  上告人らの本訴請求中上告人らが被上告人ら各自に対し各金一〇三万八二六七円及びこれに対する昭和四六年五月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人らは各自上告人に対し各金一〇三万八二六七円及びこれに対する昭和四六年五月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原判決中上告人らの原審における弁護士費用の賠償請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

三  上告人らのその余の上告を棄却する。

四  第二項掲記の請求を除くその余の請求に関する訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人らの、その余を被上告人らの各負担とする。

理由

上告代理人小野寺利孝、同古川裕士、同百瀬和男、同長谷則彦の上告理由第一点、第二点及び第五点一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の当裁判所の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて本件損害賠償につき所論の過失相殺をすべきものと認めた原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第四点一について

所論消滅時効期間の起算点に関する原審の判示は、被上告人らの主張に対する解釈を示したものと解することができ、右解釈は是認することができるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点二について

不法行為により損害賠償請求の訴の提起を余儀なくされた場合に要した弁護士費用は、相当と認められる範囲内で右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和四一年(オ)第二八〇号同四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号四四一頁参照)から、被上告人らは上告人らに対し、本件不法行為に基づく損害として、本件弁護士費用を賠償すべき義務がある。しかしながら、弁護士費用の賠償請求についてはその消滅時効の起算点は報酬金支払契約締結の時と解される(最高裁昭和四四年(オ)第八一二号同四五年六月一九日第二小法廷判決・民集二四巻六号五六〇頁参照)ところ、記録によれば上告人らは本訴提起当時から本件訴訟の追行を弁護士に委任しており、報酬金支払契約締結の時期について特段の事情の主張立証はないのであるから、本訴提起までに報酬金支払契約が締結されたものとみるべく、したがつて遅くとも訴提起時には消滅時効が進行を開始しているものというべきである。ところが、上告人らは、本件訴状において、亡椎原稔の将来得べかりし利益の喪失による損害の賠償請求及び同人の死亡によつてその両親である上告人ら自身が受けた損害の賠償請求とともに第一審の弁護士費用の賠償請求をしたが、右弁護士費用の賠償請求を第一審判決前に取り下げ、その後原審における請求拡張によつて改めて第一、二審の弁護士費用の賠償を請求したものであつて、訴提起後右請求拡張までに民法七二四条所定の三年以上の期間が経過している。そして、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において被害者が一定の種類の損害に限り裁判上の請求をすることを明らかにし、その他の種類の損害についてはこれを知りながらあえて裁判上の請求をしない場合には、それらの損害が同一の不法行為に基づくものであつても訴提起による消滅時効中断の効力は請求のなかつた部分には及ばないものと解すべきである(最高裁昭和三八年(オ)第八四二号同四三年六月二七日第一小法廷判決・裁判集民事九一四号四六一頁参照)から、本件の第一審の弁護士費用については右請求拡張以前に消滅時効が完成したものというべきである。これに対して、原審の弁護士費用については右と事情を異にする。すなわち、上告人らが原審における訴訟追行を委任した弁護士のうち一部は原審で初めて受任した者であり、第一審から引続き受任している者についても、弁護士の報酬金支払契約は審級ごとになされるのが通常であるから、原審における弁護士の報酬金支払契約締結の時期につき特段の事情が認められない限り、右報酬金支払契約は第一審判決後に締結されたものとみるべく、その後前記請求拡張までに三年の時効期間が経過していないことが記録上明らかな本件においては、原審の弁護士費用の賠償請求権についての消滅時効は、右請求拡張により中断され、完成していないものというべきである。したがつて、右特段の事情を認定することなく原審の弁護士費用について消滅時効の完成を認め、その賠償請求を棄却した原判決は、法令の解釈適用を誤つたか理由不備の違法を犯したものであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の限度で理由があり、原判決中上告人らの原審における弁護士費用の賠償請求に関する部分は破棄を免れない。右賠償請求について更に審理を尽くさせるため、右部分について本件を原審に差し戻すのが相当である。

同第五点二について

他人の不法行為により死亡した幼児の損害賠償請求権を相続した者が一方で幼児の養育費・教育費の支出を必要としなくなつた場合においても、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費・教育費を控除すべきものではないと解するのが相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第六五六号同五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号登載予定参照)。したがつて、亡稔の財産上の損害額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費・教育費に相当する二〇七万六五三四円を控除した原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。それゆえ、論旨は理由があり、上告人らの本訴請求中上告人らが被上告人ら各自に対し右二〇七万六五三四円の二分の一にあたる各一〇三万八二六七円及びこれに対する本件事故当日である昭和四六年五月三〇日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求を棄却した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、上告人らの右請求を認容すべきである。

(裁判長裁判官 吉田 豊 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林 讓 裁判官 栗本一夫)

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